東京高等裁判所 昭和35年(ネ)2055号 判決 1961年7月17日
控訴人(原告) 荒雄嶽鉱業株式会社
被控訴人(被告) 建設大臣
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人が控訴人に対し宮城県収用委員会の裁決に対する訴願(建設省三二城計第六九号)につき昭和三十四年二月二十四日なした訴願人の請求を却下する旨の裁決はこれを取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との趣旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上及び法律上の主張並に証拠の関係は、控訴代理人において「憲法第十三条において、国民の幸福追求に対する権利は、公共の福祉に反しない限り、立法その他国政上最大の尊重を受くべきことを定めている。この憲法の趣旨に照らし、土地収用法第百二十九条第二項の規定の適用に当つては、国民の侵された権利、利益の救済を求める方法を濫りに制限することのないよう解釈すべきは当然であつて、同法第百二十九条第二項但書括弧内に掲げる第七十八条の裁決については、明文上何等の限定がないのに、既に廃止された行政裁判所法や旧土地収用法の規定を持ち出し、これを損失補償に関する部分以外の事項に関するもののみを指すと縮少的に解して、違法な裁決に対する訴願の途を閉すのは、憲法第十三条の精神に反するものである。」と述べた外、原判決事実に記載するとおりであるから、これを引用する。
理由
土地収用法第百二十九条第二項但書括弧内の「第七十八条の規定による請求にかかる裁決」とあるのは、同法の建前上、損失補償に関するものを除き、収用自体に関する事項についての裁決部分のみを指すものと解すべく、従つて被控訴人がその理由により損失補償に関する裁決に対する控訴人の訴願を却下したのはもとより正当である。この点に関する当裁判所の見解は、原判決理由に説示するところと全く同一に帰するので、右の説示を引用するに止める。控訴人はかかる解釈は憲法第十三条の趣旨に反すると主張するけれども、土地収用に関する収用委員会の裁決に不服ある場合、裁決の内容たる事項の性質に応じて訴願を経由し、行政庁に再審査の機会を与えた上で、裁判所に出訴すべきものと、訴願を許さず直接訴訟によらしめるものと救済の方法を分けて規定しても、それは純然たる立法政策の問題に属すべく、収用裁決のうち損失補償に関する部分に対し出訴のみを許し、訴願による不服申立を認めないからといつて、憲法に反するものというべきでないことは勿論である。それ故土地収用法第七十八条のいわゆる拡張収用の場合、損失補償に関する裁決部分に関する限り、訴願を許さないとしても、憲法第十三条には牴触しない。
よつて原判決を相当とし、本件控訴を棄却すべきものとし、民事訴訟法第八十九条、第九十五条に則り、主文のとおり判決する。
(裁判官 一宮節二郎 奥野利一 渡辺一雄)